memo:『物理学における理想化』(Cambridge Elements)

Cambridge ElementsのPhilosophy of Physicsシリーズから、「物理学における理想化」をテーマにした本が出版されているのを見つけた。2023年1月26日までオープンアクセスで、無料で閲覧、ダウンロードができる。

  • Elay Shech. (2023). Idealizations in Physics (Elements in the Philosophy of Physics). Cambridge: Cambridge University Press. doi:10.1017/9781108946742

www.cambridge.org

 

Abstract:理想化 idealization は物理学において遍在している。それらは、理論、法則、モデル、そして科学的表象 scientific representation に入り込む、歪み、あるいは偽なるものである。[理想化にかんして]さまざまな問いが浮かぶ:理想化とは何か?なぜわれわれは理想化にうったえるのか?そしてその理想化はどのように正当化されるのか?理想化は物理学にとって本質的か?もしそうであるならば、それはどのような意味で、どのような目的に対してそうなのか?理想化は、どのようにして真正な理解をもたらしうるのか?電子やクォークといった観察不可能なものの存在を信じるのは、それらがわれわれの最もよくできた理論において必要不可欠であるからなのだとすると、われわれは必要不可欠な理想化 indispensable idealization の存在をも信じるべきなのか?本書はそのような問いに取り組み、物理学における理想化にかんする哲学的問題へのひとつの立場からの精選された導入を提示する。トピックとして、理想化の概念、理想化を導入する理由、抽象化 abstraction、近似 approximation、ありうる[理想化の]分類と正当化、そして数学的プラトニズム mathematical Platonism、科学的実在論 scientific realism、科学的理解 scientific understanding といった諸問題への応用を扱う。(Shech 2023, p.iii)

Keywords:理想化 idealization、抽象化 abstraction、近似 approximation、科学モデル scientific models、科学的表象 scientific representation (Shech 2023, p.iii)

 

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Introductionを軽く見て、難しそうだけれど面白そうと思ったので、後で読むかもしれない。Introductionでは、物理学における理想化の二つの例として、ブラウン運動とアハラノフ=ボーム効果が挙げられている。私はどちらの現象のこともほとんど知らないのでかなり戸惑った。

アハラノフ=ボーム効果というのは、荷電粒子が電磁場のない領域で電磁ポテンシャルの影響を受ける現象のことらしい。普通に磁場があれば、荷電粒子は磁場の影響を受ける(ローレンツ力)ことは古典物理的にも説明できるのだけれど、そうではなくて、磁場を完全に遮蔽して漏れ出さないようにしても、やはり荷電粒子はなんらかの物理的影響を受ける(そしてこれは古典物理的には説明できない)。

本では、アハラノフ=ボーム効果の理論的導出で使われているいろいろな理想化に主として注目しているのだけれど、この現象は「電場、磁場と電磁ベクトルポテンシャルのどちらがより基本的な物理量か」という問題にもかかわっているらしい、というところも個人的にはとても気になっている。